第2回

接ぎ木(つぎき)をする理由とは?

2025.4.5-4.6

前回ご紹介した「剪定」に加えて、栗の品質を左右するもう一つの重要な作業があります。それが「接ぎ木(つぎき)」 です。4月の半ば、再び善継(よしつぐ)さんを訪ねて、その現場を見せていただきました。

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「栗というのは、果樹の中でも“成木率” が低いんです」と善継さんは言います。「たとえばリンゴやナシなら、100本植えたら90本くらいは育ちますが、栗は悪い年には半分、よくても70本ぐらいしか育ちません」。さらに、 栗は他の品種の花粉と交配してしまうため、実から育てても元の木(母樹)と同じような実をつけるとは限らないのだそう。

良い栗を育てるには、良い木を「つなぐ」

だから、いい栗を育てるためには優秀な実をつけた母樹から穂木(ほぎ)をとってきて、それを接ぎ木する作業が必要です。栗の実を蒔いて育てた苗を実生苗と言いますが、これを翌年2年目から接ぎ木します」。

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梅が咲いたら穂木をとる

穂木をとるタイミングは、梅の花が満開の2月の下旬ごろ。「冬場は栗の木が眠っていますから、その栗の休眠期に採った穂木を、乾燥しないように黒マルチに包んで、冷蔵庫で4℃(家庭用の冷蔵庫の野菜室と同じ)ぐらいの温度で保存しておきます」。

桜が咲いたら、接ぎ木の季節

「こうして眠らせていた枝を、乾燥しないように接ぎ木する分だけ取り出します。時期は春接ぎと秋接ぎの2種類が あるんですが、春の方が成績がいいですね。一般的に栗の接ぎ木をする時期はソメイヨシノの桜が満開になってか ら1週間後くらいがちょうどいいと言われていますが、うちのあたりでは早く散りますので、そのお隣の八重桜が満 開になったころを適期としています」

接ぎ木に使う道具と方法

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鎌、枝切り鋏、手鋸、ナイフなど(台木や穂木の太さに応じて使い分け)、接ぎ木用テープ(乾燥とズレを防ぐ)、 メイカコート(樹木保護剤)

「切りつぎ」と「剥ぎつぎ」

接ぎ木の方法には、「切りつぎ(あるいは割りつぎ)」と「剥ぎつぎ」の2種類があります。1本の台木(元になる木)に対して、2つの芽がついた穂木をつぎます。必要な分だけその場で取り出して、乾燥させないよう常に細心の注意を払います。切りつぎは台木が細い場合、剥ぎつぎは台木が太い場合に向いていますが、どちらの継ぎ方が適しているかは台木の生育の様子を見ながら、その栗の木にとって自然に育っていける方法を判断します。その見極めには、経験と技がものをいいます。具体的にはどのように継いでいくのかを見せていただきました。

切りつぎ

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台木の切断面を面取りします。
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台木を割ります。
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穂木を斜めに切ります。
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台木に穂木を差し込みます(融合)

剥ぎつぎ

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台木の皮を剥ぎます。
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穂木を切ります。
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穂木を差し込みます。
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切りつぎ、剥ぎつぎのいずれも、乾燥や水の侵入を防ぐためにテープで接合部をしっかり巻きます。
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さらにメイカコートという保護剤を塗って穂木を守ります。
 

この接ぎ木の作業、善継さんはなんと1日に約150本こなすのだそう。1本ずつ丁寧に細やかに、そして驚くほどの速さで手際よく進めていきます。

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人の役には立っておこう

パワフルに働き続ける善継さんの原動力は、一体どこからくるのだろう?そんなことを思っていると、作業の合間に、 善継さんがスマホの画面を見せてくれました。そこには友人が送ってくれたという言葉が。

会いたい人には会っておこう
言いたいことは言っておこう
人の役には立っておこう

「栗を育てるときも、そんな気持ちでやっています」そう言って休憩もそこそこに、今度は草刈り機を手に栗園へ戻っていく善継さん。

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終わりなき作業の一つひとつが、美味しい栗へとつながっています。